2009年 11月 12日

ともに全日本のタイトルホルダーで、この大会を最後に引退を表明していた岩渕と本村がシングルスで姿を消した。ベテランの敗退を惜しむかのように、暖かだった前日までとはうって変わって、大会6日目は朝から冷え込んだままで、曇天から日が差すことはなかった。
この大会4度優勝の本村は、前日の雨の影響でこの日、2回戦と3回戦が組まれた。2試合目となる、昨年準優勝の伊藤との3回戦。1球ずつ気合を込めた声を発し、最後まであきらめずにボールを追いかけた。微妙な判定に大声を出すのも本村らしかった。ただ、長いラリーでは次第に伊藤に押され、振り回されると必死で体を伸ばしフォアをスライスで返す姿は、グリグリのトップスピンで攻めまくった往年には見られなかったシーンだ。
第2セットで「意地」は見せた。第1、第3ゲームのサーブでは計5回のブレークポイントをしのいだ。2ー5からの伊藤のサービスゲームでは、しつこいストロークで相手ミスを誘い、初めてのサービスブレークも果たした。「2試合はきつかった。(伊藤)竜馬には正直、勝てないと思ったが、ベストは尽くした。ボールはよくなくても、1球でも多く返した。それでやられたら仕方ない」。伸び盛りの21歳が相手の、納得の敗戦だった。
試合後の記者会見に本村は息子を伴って現れた。初めて全日本に優勝した1999年に生まれた長男だ。出場14回、シングルスでは出場選手で最多の53勝を重ねているだけに、様々な思いが脳裏をよぎった。全日本での思い出の試合を尋ねられると「第1セットを取って、優勝インタビューのコメントを考えていて、逆転でやられた」と振り返った鈴木貴男との96年の決勝、岩渕と争った99年決勝、大接戦を制した権伍喜との2000年決勝。止めどなく出てくる思い出に「全日本はいろんな思いのある試合が多すぎですね」と苦笑した。
四大大会は主催者推薦で出場した全豪の2度だけ。ツアー下部のチャレンジャーでは10度進んだ決勝で1回も勝てなかった。「グランドスラムには自力で上りたかった。チャレンジャーの優勝もクリアしたかった。そこに悔いが残る」と本村がテニス人生を振り返った。毎週のように大会を回り、ランキングに一喜一憂する生活は終わるが、これで完全にラケットを置くつもりはない。「ランキングが関係ない、日本リーグとかでチャンスがあれば。でもシングルスはもうないかも」。引退を決意しながらも、まだ揺れる本村の心情が漏れてきた。
05~06年と連覇している岩渕は、シングルス3回戦敗退に「もう気持ちはダブルスの方にある」と淡々とした表情を崩さなかった。「今日は(近藤)大生がうまかった。最後は苦手なバックを攻められた」。第1セットを先取しながらの逆転負けにも、9年ぶりの準々決勝進出を果たした後輩をたたえた。「もう、(コート)1面を駆けずり回らないでいい。あとは半面を頑張る。それにかけるだけ」。シングルスは敗れても、松井と組むダブルスでは連覇、そして個人のダブルス優勝では最多記録更新となる8度目のタイトルがかかるだけに、岩渕の気持ちは切れていない。
谷 祐一