待ちに待ったタイトルだった。第1シードとして04年、06年と決勝に駒を進めながら2度とも涙を飲んだ。3度目の挑戦となった大舞台で中村はようやく力を発揮し、初優勝を飾った。女子シングルスでの第1シードの優勝は、01年の藤原里華以来6年ぶりとなる。
この日の最高気温は14度。寒空のもと、始まった決勝戦は、中村が序盤から主導権を握る。第6ゲームこそ波形にブレークポイントがあったものの、それ以外は付け入る隙を与えない盤石の試合運び。6−2で第1セットを先取した。過去2度の決勝戦とは明らかに違う。充実したプレーを見せる第1シードの姿がそこにあった。
「決勝の緊張感はそんなになかったが、相手に自分のテニスをさせてもらえなかった」。試合後の会見で中村のプレーを称えた波形だが、惜しまれるのはコンディション。右の臀部から太ももに違和感があり、思うように動けない。第1セットが終わるとメディカルタイムアウトを取ったが、満身創痍の状態は変わらなかった。第2セットは一度もサービスをキープできず、ゲームセット。「今は、決勝で負けたことより、ベストな状態でプレーできなかったことがくやしい」と波形は試合を振り返った。
「過去2回は優勝したいという思いが強すぎて自分のプレーができなかった。今回は先の事を考えずに、一球一球、目の前のプレーに専念することで良い結果が出たのだと思う」と中村。海外でツアーを回っている経験が自らを成長させ、全日本に対しても見方が変わったと言う。「何がなんでも取りたい大会だったのが、ひとつの通過点と考えられるようになった」。
これまでの会見でも、まるで自分自身に言い聞かせるように「一戦一戦」「一球一球」という言葉を強調していた中村。そうして一歩一歩、優勝への歩みを進めていった。過去の屈辱をバネにひと回り大きくなった中村は、観客に向けてのチャンピオンスピーチで思わず声をつまらせた。「昨年の全米オープン直前に亡くした母親のことが一瞬、頭をよぎった」。感動的な表彰台の上で日本のエースが掲げた優勝楯がまぶしかった。
広報委員・フリーライター 成瀬 悦朗